秀808の平凡日誌

第壱拾窮話 遠雷



 いきなり、同じ天使からの襲撃を受けたダグ・アルドリッチは、後退しながらまだ慌てふためく部下達に怒鳴りつける。

「下がれ!おまえ達!止まっていては絶好の的だ!」

 怒鳴りつけられた部下達がやや後退しながら、迫り来る敵に『ホーリーサークル』を放ち、応戦を始める。

 ダグも同じようにして『ホーリーサークル』を放つが、迫り来る天使達に掠りもしない。ダグの脳内では、こいつらは相当な手練れであることを瞬時に理解した。



「こんなひよっこどもに!」

 自分たちに向けて放たれる『ホーリーサークル』を紙一重で避け接近しながら、スノウは腰の剣を抜き取った。

 同じようにして仲間の追放天使達も腰の剣を抜き取る。

 本来天使は『ホーリーサークル』などの破壊力を上げるために『知識』を上げようと努力するのだが、スノウ達は従来の天使には誰一人上げようと思わない『俊敏』により、驚異的な機動性を得ていた。

 しかし兵の実力の差はそれ以上だ。昨日今日で天使兵に配属された者に遅れをとる者は、この隊にはいない。

 ―そして、背負う信念の重さにおいても――。

 スノウは『ホーリーサークル』を撃ちつつ後退しようとしていた天使兵の一人に瞬く間に迫り、すれ違うと同時に相手の体をその剣で切り裂いた。彼の太刀筋には一点の曇りも無い。

「この程度の敵!たとえ何人来ようと相手ではない!!」

 その叫びを上げると同時に、彼は放たれた『ホーリーサークル』を寸前のところでかわし、放たれた方向に素早く向き直り、迫った。

 その『ホーリーサークル』を放ったダグは、両手に魔力を集中させ、手の平を合わせると、瞬く間に光の剣が現れた。大天使級の者しか会得できない『ホーリーブレード』と呼ばれる高難易度スキルだ。

 ダグは決して遅くない動きでスノウに迫ると、その剣を振り下ろした。スノウも自らの愛剣でそれを受け止める。

 スノウがその天使がダグであることを気付くと、不敵な笑い声を洩らす。

「…クククク…だれと思えば、我旧友のダグ・アドルリッチではないか?」

「…!お前は、スノウ・ラディッツか?」

 2人は刃をジリジリと交らわせながら言葉を続ける」

「なぜ、お前がこんなことをするんだ!?同じ天使として、今まで一緒に頑張って天使長様に仕えてきたというのに!」

「…『天使長』?あのような腰抜けの天使長にこき使われ、挙句のはてには我の師、メキジェウス様を蹴落とし、あの憎き穏健派のアシャー・ラグーンをその大天使の座に置いたあの天使長アズラエルか?」

 アズラエル、という単語にスノウは声を限りに怒鳴る。

「我はあのような者に忠誠を誓った覚えは無い!今回の邪魔をするというのなら、いくら貴様でも…切り捨てる!!」

 そしてスノウはダグと距離をとると、電光石火のごとく剣を構えダグに迫った。
『サンクチュアリ』の展開は間に合わなず、気付いた部下が援護しようとするが、やはり間に合わない!

「っ!ダグ隊長!!」

 スノウの剣がダグを切り裂こうとした刹那、何かが割って入り、その剣を受け止めた。



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